【エッセイ】晩秋|シャンソン歌手宇佐美一生、モデル、司会もやっています。

宇佐美一生研究所
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晩秋

朝方、犬と散歩してる人を見た。
昨日、さくらが死んだ。
私に抱かれるのを待つかのように、抱いて2・3分で息を引き取った。
「ありがとう・・バイバイ」も言わないで。
「さくら・・さくら」と呼んでも もう反応も無い。
ぐにゃっ と、柔らかい布で出来たぬいぐるみのようだ。
死とはこんなにもあっけなく残酷だ。
この世で一緒に呼吸して暮らしていたものが、一瞬で失われる。

今朝 窓の空いた所から、いつの間にか小蝿が入ってきたようだ。
猛スピードで室内を戦闘機のように走る。

晩秋

浩二が、「親分、さくらが呼んだのかも知れない、こんな時はそのままにしておいた方がいいよ」と言う。
「そうか・・そうだね」

母が死んだ時も、地方から寄り集まった身内が、一人 二人と帰り、たった一人になってしまったそんな時、駐車場に黄色や白のモンシロチョウがひらひらやって来た。
ある時は綺麗なアゲハチョウもどこからかやって来た。
それからはトカゲも虫も蛙も蟻も、殺せなくなった。
「急げ 急げ 頑張れ 頑張れ よっこらしょ よっこらしょっと」

携帯の待ち受けに、浩二とさくらが、びしょ濡れで写っている。
風呂場でのシャンプーの後だ。

この街で、母とバンビとさくらを見送った。
母と入れ替わりに浩二がやって来た。
母の命日が浩二の誕生日。
仏壇の過去帳を見た浩二が「おばあちゃんは、僕の誕生日に亡くなったんだね・・」と言った。
母が呼び寄せた神様の贈り物なんだ。

母が死に、しばらくは車の運転も出来なくなった。
同じぐらいの背恰好の老婦、白髪のうしろ姿、歩き方の似てる人を見かけると、

立ち止まって往き過ぎるのを見やった。
バンビと同じ犬を見ると、バンビのことを思った。
「あ!バンビ・・  」と呼び、何度も何度も振り返って見やった。
バンビの動く足、揺れる毛を懐かしんだ。
さくらも、まだ部屋で寝そべってるが、浩二と、土曜日には火葬する。
さくらがここからいなくなる。
さくらと同じ柴犬を見ると又立ち止まるだろう・・・
さくらは可愛かった。
一番可愛かった。
みんなに「いい顔してるね、可愛いね」と褒められた。
誰でも彼でも懐いて飛び込んで行った。
嬉しく身体中でじゃれついていた。
もういない。
寂しいね・・
残された者は寂しい。
寒くなるね。